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「全財産を取られたような気になった」
 この時期になると思い出す人がいます。

 エアロスミスをこよなく愛し、ギターがもの凄く上手な友人がいました。力強くて感情豊かなギターを弾く彼と、ヘタウマ(ヘタヘタ?)なギターを弾く僕は、音楽的な接点などなかったような気がします。それでも、なぜか通じ合うものがあり、よく一緒にいました。路上やスタジオや家の中などを問わず、とにかく彼と一緒に演奏していると楽しいのです。
 彼とはギターで会話ができるような関係でした。お互いが出す音で言いたいことや考えていることがわかるのです。そんな会話術が適用できるのは彼だけで、言葉より身近なコミュニケーション手段でした。

 彼は、自分の音楽をウ○コだと言っていました。センスと技術を使った創造物ではなく、必要に迫られて曲が生まれるようでした。なので、できあがることに満足を感じないのです。彼にとっての音楽とは、放出することで楽になることができる排泄物。そんな排泄物に対して、共感を覚えた音楽仲間は多かったと記憶しています。

 1度だけ、彼の別宅へ連れて行ってもらったことがあります。別宅といっても、一時的に退院していた彼が病院へ戻るということで付き添っていったのです。パスコードがないと開けてもらえない扉を抜け、窓に柵がはめ込んである彼の部屋へとついていきました。廊下で奇声を発したりこちらを凝視する他の住人を横目に見ながら、「ここの中と外では、どっちが人間らしいと思う?ここはありのままを受け入れてくれる」と言っていたのが印象的でした。

 ある日、一緒にライブをしたことがあります。彼は1人でギターを弾きながら歌い、僕は4人編成のバンドで出演しました。僕が演奏していると、どんどん前にやってきて、とうとう目の前に座り込んでじーっとこっちを見て聞いています。客席とステージが同じ高さだったため、足を上げれば顔面に蹴りが入るくらいの距離でした。そして、僕の演奏直後、彼は出番がまだ残っているにもかかわらず、荷物をまとめて「もう帰る」と言い放ち、さっさと帰ってしまったのです。
 後日、「何で帰ったんだ!」と話したところ、「おまえの演奏を聴いていると全財産を取られたような気になった」という言葉が返ってきました。

 9年前、彼はこの世からいなくなってしまいました。なので、僕が奪った彼の財産がどんなものだったのか、とうとうわからないままです。
by senang | 2005-12-12 15:31 | 【0】センシブルワールド
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