N氏の営農と生活の改善 その1
 わが家の歴史がわかる文献が出てきました。歴史といっても半世紀前の営農改善の経緯を記したもので、決して古いものではありません。むしろ最近の部類に入ります。
 文献自体に歴史的価値はあまりないと思いますが、自給という観点で見ると、当時の状況がよくわかり、生きていくためにどのような作業が必要だったのかがよくわかります。とても参考になりました。

 そこで、営農と生活の改善についてシリーズでお送りいたします。

 過去帳によると、そもそもこの地に長らく家があったわけではなく、明治時代に家を建てて田畑を開墾したとあります。その約50年後の1940年、文献の筆者(N氏)が18歳で家を継ぎました。当時は、「農業の経験も浅く慣行農法を惰性的に行つて」おり、「零細な耕地で如何にして生きて行くかということが大きな問題」であったとのことです。
 生産の基盤となる耕地。その多くは、沼や沢などの湿地を埋め立ててつくったために湿田です。沼地状態なので機械の導入はおろか、「牛の腹まで没する箇所もあり牛も入らない田があつて」、「雪どけを待つて膝上まで没する水田に入つて一鍬一鍬耕起して5月下旬の田植までこの作業を連日続ける」という、効率の悪い作業が続きました。このままでは、血のにじむような苦労を続けても経営は安定しません。そのため、田を乾田化することが最大の課題となりました。
 他にも営農に関する問題点はたくさんあったようです。1950年当時の問題点と対策の難易度は次のとおりです。

 1.水田の悪条件
  (1) 排水路の掘り下げ・・・易
  (2) 耕作道の拡張・・・可

 2.水稲低位生産
  (1) 適品種の導入・・・易
  (2) 施肥設計・・・易
  (3) 冷水対策・・・可

 3.畑地および斜傾地の放置
  (1) 果樹(柿、リンゴ)の植栽・・・可
  (2) 栗および飼料の栽培・・・易

 4.山林の放任
  (1) 計画造林の実施・・・難
  (2) 放牧地の新設・・・難
  (3) 飼料木の栽培・・・難

 5.家畜飼料を購入飼料に依存している
  (1) 水田裏作による自給度の向上・・・可
  (2) サイロの設置・・・可

 6.家畜が少ない
  (1) 和牛の増殖・・・可
  (2) 中小家畜の導入・・・可

 7.労働の酷使
  (1) 作業の合理性を研究・・・可
  (2) 動力耕耘機の導入・・・難
  (3) 家庭生活の合理化・・・可

 8.資金対策
  (1) 再生産資材の活用・・・可
  (2) 労賃(脱穀、籾摺)・・・可
  (3) 兼業(出稼、製炭)・・・難

 N氏は、これらの課題に対処するために次のような改善計画を立てました。

 1.土地基礎条件の整備
  (1) 暗渠排水
  (2) 用排水路
  (3) 農道

 2.水稲耕種法刷新
  (1) 水稲基礎知識の習得
  (2) 適品種の導入
  (3) 健苗の育成
  (4) 施肥設計
  (5) 堆肥の増施
  (6) 秋落対策
  (7) 病害虫防除
  (8) 冷水対策
  (9) 耕耘の動力機械化

 3.家畜の増殖
  (1) 出産
  (2) 鶏の導入
  (3) 飼料作物の栽培
  (4) 山羊の導入
  (5) サイロの設置
  (6) 畜舎の改造

 4.山林の計画管理
  (1) 計画造林
  (2) 林間牧野の設置
  (3) 下刈および管理
  (4) 牧野の草生改良

 5.過程生活の改善
  (1) 水源の確保
  (2) 家事労働の能率化
  (3) 台所改善(採光窓、改良カマド)
  (4) 食生活の改善
  (5) 勉強部屋および主婦部屋の新設
  (6) 改良便所
  (7) 風呂場の改善

 6.空地利用
  (1) 果樹の栽培
  (2) 花卉の栽培

 7.作業場の改善
  (1) 動力施設の改善(中間プーリー)
  (2) 機械鋸の設置

 この計画に沿って、N氏は1950~1956年の間に様々な作業を行います。多大な労力をつぎ込んだことがうかがえると同時に、自活力が非常に高い方だったことが想像できます。
 今僕が行っている自給生活の作業は、この足下にも及びません。そして、僕の暮らしはN氏の尽力の上に成り立っていることをしみじみと感じます。

 興味深いのは、営農改善だけではなく、生活環境の改善も同時に行っていることです。例えば、勉強部屋や主婦部屋をつくることを筆頭に、家事労働の効率化なども考えられています。今で言うリフォームですね。その背景には、生業(農業)と生活が渾然一体となっていた実態があります。
 文献でN氏は、「家族会議を開き、経営の実状を家族全員が知ることによつて家族の融和につとめました」と表現しています。仕事と生活を分断するのではなく、農家としての住まい方全般を対象として見直しをかけたのだと思います。

 改善以来、「作業計画の話し合いを行い、その結果を台所入口に設けた黒板の予定表に記入し実践に努めています」とのこと。
 今もわが家の台所に黒板が架かっています。1956年当時、34歳のN氏と30歳の奥様が黒板を見つめ、作業について相談し、家の前の田を耕したり牛の世話をしたりしていた情景が目に浮かぶようです。
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by senang | 2007-03-13 18:58 | 【2】DIYな暮らし
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