「日本は1億人を養えるか?」というテーマに基づき、理論的なシミュレーションを行ってみました。過去記事でも里山の面積に着目して同様の試算を試みており、今回はこれに農地を加えて再考したものになります。面積のみを元にした試算であり、かなり大雑把なものであることをご了承ください。
条件の設定
生存条件を次のように設定しました。
1)物質的豊かさは格段に落ちる。物質的水準の維持・発展は考慮しない。
2)生存に必要な最低限のものとして、食糧とエネルギーの確保・供給に絞る。
3)資源の100%国内自給を想定。
4)エネルギー源は木質系バイオマスを想定し、林地に依拠する。
5)食糧は米と野菜の確保を想定する。
6)1世帯を5人家族として計算。
理論実験の展開
既往の文献や経験値などから、人間が消費する資源、資源を生産する土地の面積を次のように設定しました。
食糧
1)1世帯あたり年間500kgの米を食べる。
→米の収穫量は5,000kg/1haより、0.1ha/世帯の水田面積が必要。
2)畑として水田の半分の面積が必要であると想定する。
→0.05ha/世帯の畑が必要。
3)肥料供給源として水田の2~3倍の面積に相当する山林が必要。
→0.2~0.3haの「採草地」が必要。
1世帯が暮らすために必要な農地・林地
農地:0.1haの水田+0.05haの畑=0.15ha
林地:0.25haの採草地
エネルギー
160~170世帯分の電力を木質系バイオマス発電で持続的に賄うには
500haの山林が必要。
→1世帯が持続的に電力を得るには3haの「電力林」(造語)が必要。
農地の現況に基づく扶養可能人数
全国の農地面積3,675,820ha÷必要農地面積0.15ha/世帯=24,505,467世帯
24,505,467世帯×5人=122,527,333人=
約1億2,253万人
林地の現況に基づく扶養可能人数
全国の里山面積7,500,000ha÷必要林地面積/世帯3.25ha=2,307,692世帯
2,307,692世帯×5人=11,538,462人=
約1,154万人
※日本の林野面積は2,500万haで、このうち里山に属する面積を用いました。
※里山面積は、600~900万haと言われており、その中間値を取りました。
考察
日本の農地をベースにすると、1億人規模を支えることは可能です。ただし、国内で生産できる食糧に限られるため、多様性は格段に失われます。また、ここで示した生産量(収量)は、機械化と化石燃料の使用に支えられたものであり、単位土地あたりの生産効率が最大になっています。化石燃料からの脱却を考える場合、生産効率がかなり悪くなり、生存可能人口も低下することを覚悟しなければなりません。
食糧生産を考えるうえでも、エネルギーの確保が重要な課題になります。エネルギー源として木質系バイオマスを想定すると、供給量は林地面積に依拠することになります。ところが、現在の里山面積をもとに計算したところ、家庭用電力を基本として養うことができるのは約1,154万人。さらに産業的電力使用(農業を含む)を勘案すると、生存可能人口がもっと少なくなるのは必至です。ちなみに、上記の計算の分母に日本の全林野面積(2,500万ha)を当てはめても、生存可能なのは3,846万人という計算になります。しかし、奥山にまで手をつけることは作業工程の面から現実的ではないうえに、環境の持続性を著しく欠くことにもなります。
以上より、日本で生存できる人間の適正量を決める資源上限は、食糧よりエネルギーの方が低いと考えられます。具体的には、電気のない(大きなエネルギーを必要としない)前近代的な生活を受け入れるのであれば1億人近くが生存可能であり、近代的な生活水準を求めるのであれば適正規模は1,000万人程度にとどまるということになります。