たたら製鉄と森林伐採
 「もののけ姫」にも出てきた、たたら製鉄。僕が住んでいるあたりでも、かつてたたら製鉄が盛んで、鉄の一大生産地でした。
 たたら製鉄は、山を切り崩して砂鉄を採り、炉を木炭で燃やして精錬します。まさに土壌破壊であり、木炭をつくるために大量の木々が伐採されました。100年くらい前までは、崩した土で河川の流れが変わり、木材の伐採跡であたり一面がハゲ山だったという話を聞いたことがあります。俗に言う環境破壊という言葉を持ち出すなら、森林の攪乱を繰り返していた当時の方が、大きな環境破壊になるというわけです。

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 この写真は、製鉄で崩された山の名残「かんな残丘」です。祠、墳墓、ご神木などがある場合や、大きな岩があってこれ以上掘ることができなかった場合などに、このようにポッコリした丘が残されました。

 たたら製鉄について、興味深い記述をみつけました。
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 炭を焼く樹種はいくつかの広葉樹とアカマツです。薪炭林は20~30年で伐採され、萌芽更新を行いました。このような薪炭林では、1ヘクタール当たりの平均的な幹・枝量は生重量で160トン程度と見積もられています。収炭率が17%なので、1ヘクタールの薪炭林で約30トンの木炭を焼くことができます。つまり一般的なたたら製鉄の場合は、1トンの鉄を精錬するため14トンの木炭を必要とし、そのために0.5ヘクタールの薪炭林を伐採することになります。(略)1万トンの製鉄を行うには5,000ヘクタールの薪炭林を伐採し、炭を焼かなければなりません。前述のように、薪炭林は伐った後、回復するには20~30年かかりますから、毎年1万トンの鉄を精錬しつづけるには15万ヘクタールの薪炭林が必要となります。
(斉藤昌宏氏;(社)日本林業技術協会編「里山を考える101のヒント」34~35ページ)
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 斉藤氏によると、1万トンの鉄生産量は明治前期における日本全体のものということです。従って、当時は全国で15万ヘクタールの森林が伐採されていたことになります。しかし、実際には鉄の生産に向き・不向きの土壌条件があり、全国まんべんなくというわけではありません。八幡製鉄所ができるまでの間、中国地方が全国の鉄の9割近くを生産していたということを考えると、これらの伐採は主として中国地方で行われていたということになります。
 明治期までの方法で鉄の生産を行うとすると、全国で15万ヘクタールの薪炭林が必要であり、そこから毎年5,000ヘクタールずつ伐採していくということになります。毎年5,000ヘクタールの伐採量というものを、多いと見るのか、少ないと見るのか...?
 ただ、この伐採量は鉄の生産だけに固執する必要はないと思います。薪炭林の回復期にあたる20~30年の間の利用を別途考え、同じ森林で活用を複合的に進めることができればよいでしょう。たたら製鉄をはじめとした薪炭林でも、高度利用とも言うべき方法がとられてきたと思います。例えば、木を伐る→山を焼く→焼いた後に畑をつくる→地力が衰えたら放置する→草本が生える→有用な山菜(薬草や食草など)を採る→木が生える(天然更新)→また木を伐る、といったサイクルを繰り返してきたのでしょう。

 たたら製鉄に関して、斉藤氏のリサーチには素晴らしいものがありますが、1つだけ注意深く検証すべき重要な点がありましたので、以下に示させていただきます。
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 中国や朝鮮半島では製鉄によって、早い時期に森林が伐り尽くされました。日本の森林がこれだけの鉄の生産を支えられたのは、雨の多い気候で森林の回復力が大きかったからなのです。
(斉藤昌宏氏;同書35ページ)
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 中国や韓国に比べると、確かに日本は温暖多雨という気候です。しかし、肝心なのは、その風土(土壌、森林、生態系)に合わせて、人間が自らの活動を規定していたからに他なりません。事実、日本では限りある資源をめぐり、過去に何度も禁伐令が出されています。たたら製鉄が盛んだった中国地方でも、周辺環境や農業へのインパクトを考慮して、冬にしかたたら製鉄を行ってはいけないというおふれもあったようです。
 中国や韓国の森林消滅は、森林の生長量が日本より少ないことが根本原因ではなく、それに合わせたシステムを構築してこなかったことが重大なのではないでしょうか?
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by senang | 2006-01-05 12:40 | 【0】センシブルワールド
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